東京高等裁判所 平成10年(う)1377号 判決
被告人 室岡浩
〔抄 録〕
そこで、本件のごとく多数の軽犯罪法違反行為に対し、同時に一括して拘留が科せられる場合の科刑上の問題を考えると、それら多数の違反行為が同時に拘留に処せられる場合、併合罪関係にあっても単純に併科され(刑法五三条二項)、合計日数の拘留が同時に科せられることとなるため、併合罪加重の上限が定められている懲役刑や禁錮刑の場合と違い、拘留の合計日数が行為数に応じて比例的に増えることとなり、そのため、その合計日数が、短期の懲役刑や禁錮刑について併合罪加重がなされる場合の上限さえ越え、実質的に懲役刑や禁錮刑よりも重い過重な結果が生じかねないのである。例えば、身近な例を挙げると、法定刑が懲役六月以下である無免許運転の場合、多数の無免許運転が同時に処罰されても懲役九月以下であり、法定刑が懲役三月以下である酒気帯び運転の場合は、多数の酒気帯び運転が同時に処罰されるときも、懲役四月半以下であるのに対し、本件のごとき多数のビラ貼り行為が同時に処罰されるとき、一行為当たりの拘留日数とその違反行為数によっては、無免許運転や酒気帯び運転の場合よりも、長期間の拘留が科せられることにもなり得るのであり、あるいは刑法の公然わいせつ罪においては、六月以下の懲役、三〇万円以下の罰金、拘留もしくは科料の各刑が定められているが、多数の公然わいせつ行為について、懲役刑で処せられるときよりも長期間の拘留が科せられることもあり得るのであって、本来懲役刑より軽い刑であるはずの拘留が、むしろ実質的に重い刑になる不均衡が生じ得るのである。しかも懲役刑については、執行猶予が付せられる余地があるのに対し、拘留においてはそれもないので、実質的に拘留が重くなり均衡を欠く場合が、より広がる可能性がある。このように、拘留については、同時に複数の行為が処罰される場合について科刑の上限が設けられていないので、刑罰体系上懲役刑や禁錮刑との均衡が欠け、実質的にむしろ懲役刑や禁錮刑より重くなる事態が生じかねないのであるが、やはりそれは避けるべきであり、拘留が同時に併科される場合、その合計日数について自ずと限度が考えられるべきであるといえる(なお、改正刑法草案においては、拘留は一日以上九〇日以下とされ(三九条)、二個以上の拘留を併科する場合は、その刑期の合計は一二〇日を超えることができないとされている(四〇条一項)のが、参考となろう。)。
そうすると、本件については、前記のごとく、適切に処理されておれば四三件という多数の行為が同時に処罰されることが避けられたのであって、それが同時に処罰されることになった不利益を被告人に負わせることは相当でないこと、また、同時に拘留を科する場合にあっても、その刑期の合計日数の限度が考慮されるべきことからすると、原判決の各行為につき、求刑各七日の拘留に対し、各四日の拘留、合計一七二日に及ぶ拘留の刑は、重すぎて不当といわざるを得ない。
(松本光雄 松浦繁 樋口裕晃)